長引く咳

長引く咳(慢性咳嗽)

咳は難しく言うと咳嗽といい、呼吸器専門外来だけではなく、病院に来る患者さんの訴えの中でも最も多い症状のひとつと言われています。

長引く咳咳の原因は様々で、自然に軽快するいわゆる感冒が原因の咳から、肺癌や結核、肺炎などの命に係わるもの、咳喘息やアトピー咳嗽などアレルギー疾患に係わるもの、あるいは副鼻腔炎(蓄膿)といった耳鼻科で見るようなものまで多岐にわたり、漫然と咳止めを続けるだけではなかなか良くならない事も多いです。

たかが咳、されど咳であり、まずは咳について考えてみます。
現在咳に対する一番確かな手引書と考えられるのが、日本呼吸器学会による『咳嗽に関するガイドライン(第2版)』です。

まず、咳の性状として痰を伴うか否かで分けます。
痰を伴う場合を湿性咳嗽、伴わない場合は乾性咳嗽と言います。
このように分ける理由の一つは、乾性咳嗽の治療対象が咳そのものであるのに対して、湿性咳嗽の治療対象は気道の分泌を止めることになるからです。湿性咳嗽の多くは基本的には何らかの感染を契機に起こっている事が多いと考えられます。

次に咳症状の続く期間が重要になります。咳は持続時間によって急性(3週間以内)、遷延性(3週間から8週間)、慢性(8週間以上)に分けられます。

咳が出始めた3週間までは急性咳嗽と呼ばれますが、急性咳嗽をひきおこす原因の多くは、ウィルスや細菌などの病原体による感染症です。感染が原因で起こる咳嗽を感染性咳嗽といいます。感染性咳嗽はさらに、抗生剤を要する活動性感染性咳嗽とウィルスや細菌がすでに排除された後の感染後咳嗽に区別されます。感染後咳嗽は遷延性咳嗽、慢性咳嗽の原因となります。次に、3~8週間までの咳を遷延性咳と言いますが、徐々に原因の割合が感染症からそれ以外になってきます。8週間以上の咳は慢性咳嗽と呼ばれますが、感染症の割合はずいぶん少なくなります。慢性咳嗽の原因の約半数は咳喘息や気管支喘息、アトピー喘息と呼ばれるアレルギー性の咳嗽で、他には逆流性食道炎(胃酸の逆流が咳を誘発する)、副鼻腔炎(蓄膿)も慢性咳嗽の原因とされています。以下、咳症状の続く期間と原因の図を参考にして頂ければと思います。

咳症状の続く期間と原因

このように一言で咳といっても、様々な原因がありそれによって治療も変わってきます。特に慢性の咳の診断は難しい事が多く、呼吸器専門外来でも頭を悩ますことが多いです。以下、長引く咳の主な原因と特徴をお示しします。

長引く咳の主な原因と特徴

咳喘息・気管支喘息
  • 夜間や明け方に咳が出る
  • 風邪をひいたあとに咳だけ残る
  • アレルギー性鼻炎の合併や、家族にアレルギー体質の人がいる
感染後咳嗽(風邪や百日咳、マイコプラズマ気管支炎のあとなど)
  • 咳の出始める前に、風邪(発熱やのどの痛み)のような症状があった。
  • マイコプラズマ肺炎は比較的若年の方にかかりやすい。
  • 軽度の風邪などでも、1-2ヶ月の咳が続く方もおられます。
逆流性食道炎
  • 横になると咳が出やすい
  • 食後に咳が出やすい
  • 胸焼けがする
  • 口に苦いものが上がってくる(胃酸の逆流)
後鼻漏(副鼻腔炎、副鼻腔気管支症候群)
  • 鼻水がのどに落ちる感じがする
  • のどがゴロゴロして咳がからむ
  • 副鼻腔炎・蓄膿がある
薬の副作用
  • 高血圧や心不全の治療のため、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)を内服している。
その他

ほかにも心因性咳嗽といって精神的なストレスや、会議やコンサート会場など咳をしてはいけないと思う状況で咳が出やすい咳もありますし、喫煙、PM2.5・黄砂などの吸入による場合などもあります。職業やペット飼育などの生活環境に原因があることもあります。

また肺癌や肺炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、結核などの大きなご病気の可能性もあります。2~3週間たっても改善しない場合は、体力の消耗が激しくなり、体調の悪化を招きますし、上記重篤な病気が隠れている可能性もあります。早めに受診することをお勧めします。